「日本文化の空間学・随所楽座」の興行に参加して、有明海のシンポジウムに行ってきました。2006.4.28

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観光九州の再生と浮上にむけて――諫早湾・有明海を中心とする九州エキスポの提唱
片寄俊秀(かたよせ としひで)
エコツーリズム(環境学習型観光)の時代
 道州制をにらむ動きであろうか、「九州は一つ」というキャンペーンが盛んに行われている。だが、1982年の長崎水害、1991年の雲仙普賢岳噴火による火砕流の大被害で観光長崎が大打撃を受けたときに、九州全体への入り込み客が激減したように、観光の世界ではもともと「九州は一つ」であった。九州の各地には、それぞれ個性ある人文的蓄積と豊かな自然と、うまいものと温泉があり、それらを経巡る「回遊型」こそが、九州観光のもともとの伝統であり醍醐味なのだ。だが、いま九州で人気のスポットは由布院、黒川温泉、屋久島ぐらいで、あとは今ひとつぱっとしない。テーマパークが軒並み転けたことも原因の一つだが、そこに大きく暗い影を投げかけて「回遊型観光」を阻害しているのが、九州のど真ん中に位置する諫早湾を潰した干拓事業による巨大な「どぶ池」の誕生であり、その悪影響で有明海の全体が死に瀕していることである。ここに、九州経済の長年の沈下と先行きが暗い原因があると見ている。
これは、逆に考えてみるとよくわかる。わたしは以前から、諫早湾と有明海こそはいま人気の「エコツーリズム」の最高のスポットであると主張してきた。締め切り前の諫早干潟には一夜に5万羽をこえる野鳥が羽を休めていたが、これに隣接する雲仙普賢岳から有明海の全体、さらに筑後川から阿蘇まで含めば、これは間違いなく世界遺産クラスの大自然・大人文環境であり、これが九州のど真ん中で輝き始めると、全体に明るい展望が開けると思っていた。では、もう遅きに失したかというと、じつはエコツーリズムというのは面白いもので、今からでも決して遅くはないのだ。まずは諫早湾の「どぶ池」の現状をしっかりと見つめるところからスタートする。淡水化したことで干潟の生き物は死滅し、生活雑排水が沈殿して潟土はヘドロ化しているが、阿蘇の火山灰が主成分である粒子の細かい諫早湾の潟土は、とりあえず現在の水門を開けて潮を入れるだけでも、かなり急速に蘇る可能性が高い。最初は浮遊するプランクトンが棲みつき、塩分濃度が増すに従って「遷移」が進み、藻類やゴカイが棲みつくと、それらを餌にする魚類や鳥たちが戻ってくる。じつは、「その変化の過程」こそが、エコツーリズムの格好の対象になる。同様の経過は大火災を蒙ったアメリカ・イエローストーン国立公園で実証済みである。
まずは絶望的な現状。そこからスタートして、やがて魚類が戻ってくるまでのわくわくするようなドラマティックな変化。眼前で展開される「海」と干潟のもつ偉大な復元力とそのプロセスを、人々は繰り返し見に来るに違いない。諫早湾にムツゴロウが戻るのがいつになるか。「○年○月○日」の「ムツゴロウ復活元年」の予想日を全国に募集するのもいい。そこまでやるには、高潮対策機能を残しつつ、堤防を一部開削して連続防潮ゲートに変える必要があろうが、決して難しいことではない。
人々が待ちに待ったその日から、やがて増えたムツゴロウの愛のジャンプやツクシガモやハマシギの群舞を見るために、そして有明海の海の幸を味わい、沿岸から筑後川流域全体に蓄積されている豊かな自然と人文資源を訪ねるために、多くの観光客がこの九州のど真ん中にやってくると、そこを拠点として九州全体に広がる新たな「回遊」の流れが生まれ、九州の全体に明るさと活気が蘇ってくる。
エコツーリズムは客層が良く、経済効果も高いのが特徴である。一過性の物見遊山型の観光客ではなく、まじめで学術的で、しかも長期滞在やリピーター(繰り返し)が当たり前で、環境と文化を守る地域の人々への感謝と尊敬の気持ちをもっているから、地域の人たちからも歓迎される。しかも諫早湾の場合は、どんどん状況が改善されていく過程そのものがテーマなので、訪れた人に勇気と明るい希望を与えるから、人気沸騰することは間違いない。そこで大切なのは、「インタープリーター」と呼ばれる、専門的な知識を持ち、かつ素人にもやさしく紹介・解説するプロの養成であるが、それには漁師と各地の古老の知恵と知識が生きる。そのためにも、一刻も早く諫早湾に潮を入れて、ムツゴロウ復活の日を迎えたい。そして、その日を記念して、2010年頃には九州全域を包含した、回遊型の「九州大博覧会・九州エキスポ」の開催を提唱するものである。 (大阪人間科学大学教授。元長崎総合科学大学教授)

by honmachilabo | 2006-05-06 08:04 | 観光とまちづくり・片寄論文  

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